早いもので、北海道を横断する自転車旅も3日目をむかえました。
本日の目的地は『増毛町(ましけちょう)』という、30代も折り返し地点を過ぎた身としては、なんとも心強い名前の町です。
そんなベタな感想をいただきながら、ロードバイクにまたがりました。
3回目となる旅立ちの瞬間。
朝の清涼な空気の中、軽い足取りでペダルを踏み込み、130km先の町まで走りはじめます。
~前回のライドはこちら~
足に違和感?不安な3日目
早朝6時を少し過ぎたところ。
お世話になった『おたるないバックパッカーズホステル 杜の樹』で記念撮影。
あたたかい宿の人たち、ぬくもりのある内装にとても感激しました。そして、ゲストハウスの中にはかわいらしい犬&猫のコンビがいて、動物好きには本当にたまらない。
せめてもの感謝にと、ゲストハウスのオリジナルステッカーを購入。トラベルノートに大事に貼っておきました。
さて、いよいよ出発です。嬉しいことに、宿のマスターが外まで見送りにきてくれました。
「行ってきます!」
機会があったらまた泊まりにくることを誓い、ペダルを踏み込みました。
それでは、本日のルートを確認しましょう!
地図の『③』のところ、小樽市を出発して増毛町までの走行計画。
石狩市からは、絶景でライダーやドライバーから人気の高い『日本海オロロンライン』が、最終目的地である稚内市まで続いており、僕自身も走ることを楽しみにしていたルートです。
そんな3日目は、どうにもパッとしない天気。
空は一面、灰色の雲に覆われています。薄暗くて、まるで夕方みたいだ。
これからの天候回復に期待しつつ、北海道道17号から国道5号に乗り換えるために、立ち寄りはしませんが札幌方面にハンドルを切ります。
早くも海岸線に出ました。
おだやかな海は”青”ではなく空と同じ”灰色”です。その境界は渾然一体となり、あいまい。
これはこれで、幻想的で美しいと感じました。
走りはじめてから4~5kmのところで、どうにも足に違和感をおぼえます。
「左足のふくらはぎ、アキレス腱がほんの少し……痛い」
今日という1日をスタートしたばかり。自転車旅そのものも、最終目的地である稚内市まで、あと2日かけて走る計画を立てています。
北海道では、リタイアしての電車輪行も一筋縄ではいかなそうですし、なにより到着を前提にしているため、稚内空港からの飛行機を予約しています。
こんなところで、足に痛くなられては困る!
原因は、体をうまく使えていないということでしょう。
なるべく痛みが発生しないよう、自然に、無理のないようなペダリングを模索・実行。うん、かなりいい感じ。もしかしたら、これが理想のフォームなのかも?
なんとか調子を取り戻し、目の前の道を快走していきます。
しばらく進むと、重くなるペダルにヒルクラムの予感。
ガーミンのディスプレイに映る”勾配”の数値が、少しずつ増えていく。
本日、最初の山越えがやってきました。しかし、勾配は大したことないので突き進むのみ!
あいかわらず、白線の外側・車道外側線が広いため走りやすいですね。
道路の勾配が緩くなったところにある短いトンネルを抜けると、ダウンヒルに突入です。
風を切りながら、気持ちよく走ります。
そして、坂を下り切ったところは小樽市の『銭函(ぜにばこ)』という町がありました。
なんでも”ニシン漁”がにぎわっていたころ、漁師の家にお金の入った箱が積まれていたことが由来の有力な説だそうです。
分かれ道は左折。国道337号を使って『留萌・石狩』方面に進みます。
絶景!日本海オロロンラインを走る喜び
ここからは平坦道が約25kmほど続くようなので、ラクといえばラク。道端にあった自動販売機でドリンクを補充して、いざライド。
例によって、道路が広くて走りやすい!
日本全国、どこでもこのくらいの幅があれば、自転車走行はより快適になって需要も高まるのでは……と思います。
あれ?札幌市から離れるよう走っているはずなのに、カントリーサインを発見。
描かれているのは『札幌市時計台』です。観光旅行で訪れたことがあります。
地図で見ると、どうやら小樽市と石狩市に挟まれるように、ほんの少しだけ札幌市の土地があるみたいですね。カントリーサインを撮影できたのは、嬉しい偶然。
札幌(さっぽろ)もアイヌ語由来の地名。
諸説あるようですが”サッ(乾いた)・ポロ(広いところ)”という意味なんだそうです。地名ひとつで、アイヌの人たちが生活していた環境を想像できるのは、本当におもしろい。
ひたすらに続く直線道路。
このあたりは工業団地とでもいうのか、工場や施設が並んでいる印象。海沿いにある『石狩湾新港』の影響もあってか、乗用車以外に大きなトラックが行き交うのをよく見かけます。
こういうところは、逆にチャンス!
目を引く景観もない……といったら、なんだか失礼な気もしますが、立ち止まってカメラをかまえる機会も少ないため、思い切りよく爆走することができます。
ひさしぶりの停車は、大きな橋の上でした。
橋の名前である『石狩河口橋』があらわすとおり、すぐそこは石狩湾。
日本三大河川のひとつ『石狩川』は、先日の豪雨の影響なのか茶色く濁っていました。
それでも、流域面積全国2位!長さ268kmは全国3位!壮大な”川オーラ”をしっかりと感じることができました。すばらしい。
国道231号を走っていると、道路の脇に『の~すくり~む』と書いてある看板を発見。
なかなかに控えめですね。矢印がないので、どこにあるのかわからん。
しばらく進むと、背景色が黄色になった同じ看板を見つけて、「この先にあるのか!?」と、エネルギーを補給したかった僕は期待に胸をふくらませます。
勾配4%くらいの坂道を上っていくと、ついに『の~すくり~む』看板に待望の矢印!
しかし、なんだろう!いまいちお店の場所がわからない!
住宅が売りに出されているエリアなのか『分譲中』というのぼり旗を筆頭に、たくさんの旗が風でたなびいています。
ソフトクリームは魅力ですが、かつかつな走行計画を立てているため、大幅な寄り道&散策ができないのも悲しい事実。ここはスルー。
この先にも補給できるところはあるだろう。
坂道を下っていると、広がる景色に目を奪われ、思わずブレーキをかけてしまいました。
うっすら見える日本海に”落ちていく”ような感覚。なんだか非現実的で心がおどります。
遠回りになっても海岸線にこだわり、あえて国道231号から左に逸れる道を選びます。
上り坂が見えますが仕方ない。
さきほど気持ちよく下らせてもらった分だけ、どこかで”上り”があるのが世の常。文句をいわず受け入れましょう。
勾配は6%前後をいったりきたり。
それにしても、すでに出発してから約3時間が経過したんですね。
走行距離は50kmジャスト。時速16kmペースで走れているので、個人的にはそこそこ順調。
夢中で上っていると、遠くにあったはずの風車を見上げていました。
上り切り、下ったと思ったらまた上り。
細かいアップダウンを繰り返し、ふたたび国道231号・日本海オロロンラインに合流!
広大な日本海の景色に、見とれてしまいます。
この感動は、現地を走らないと味わえない。心から、「来てよかった……」と思います。
道の駅石狩でたこ焼き補給!
道の駅の看板を発見。自転車旅の”お楽しみ”ですね。
いいじゃないですか!ここでエネルギー補給を兼ねた休憩をとることにしよう。
道中には、海で作られたプールのような施設も見かけることができました。
堤防によって囲われた海。ここは、石狩市厚田区の『厚田海浜プール』です。
波は穏やかで、遠浅の砂浜が続いているため小さいお子さん連れのファミリー層にも人気の海水浴スポット。
見ているだけで飛び込みたくなります。
そして、無事に道の駅までたどり着きました。
『道の駅 石狩 「あいろーど厚田」』
いろいろな屋台やキッチンカーが並んでいて、とても活気がありますね!
あいろーど厚田は、2018年4月オープンの新しい道の駅。
建物造形もスタイリッシュですし、なにより全国的にも珍しい”3階建て”なんだそうです。
施設も充実していて、1階には地場物産販売コーナー、2階にはグルメショップや歴史・自然を取り扱った資料室、3階は厚田の絶景を眺められる展望バルコニーになっています。
エネルギー補給に、たこ焼きを購入。
食事のお供は、北海道民のソウルドリンクであるガラナ。コーラ似た味わいですが、独特のフレーバーが癖になる炭酸飲料です。
おいしく食べている最中、顔にひと粒のしずくがあたるのを感じます。
「まさか、雨か!?」
確かに曇っていますが、雨が降るような厚い雲ではないので油断していました。パラパラきたので、たこ焼きをもって軒下に避難。
すぐやむだろう。やんでくれないと困る!
たこ焼きを食べおえたら、施設内をウロウロと散策。
目の前に広がる石狩湾。
そして、その海で見られる現象がいくつもパネルで紹介されていました。
見切れていますが、その横には、夕日が水平線下に姿を消す最後の一瞬、太陽光が緑色に輝く『グリーンフラッシュ』や『蜃気楼』などが紹介されていました。
さて、あまり長く休憩していても到着が遅れてしまう。外の様子はどうだろう?
とりあえず、パラついていた雨はおさまったみたい。薄い雲同士のはざまからは、青々とした空がのぞいています。
出発にいはちょうどいいタイミング。ロードバイクにまたがり、道の駅をあとにします。
走るのは当然、国道231号・日本海オロロンライン。この道が、僕を最終目的地・稚内市まで導いてくれるはずです。
しかし、美しい景観とは裏腹に、サイクリストに容赦のない牙を剥くこともあります。
それが道の駅を過ぎてからの区間。とにかく、トンネルが多い!
第1の刺客『滝の沢隧道』(1,242m)を抜けると、150m先に『太島内トンネル』(2,454m)が姿をあらわします。
この時点で、すでにトータル約3.6kmのトンネル走行。
ようやく抜けた!……と喜んだのも束の間、次は『新赤岩トンネル』(963m)がお出迎え。
先の2つに比べたら短いとはいえ、トンネルの連戦は心身にこたえるぜ。
新赤岩トンネルを抜けると、今度はヒルクライムが待ち構えていました。
ああ!勾配4%以上ある坂道なのに!
写真におさめようとすると、きまって勾配が緩めのところで撮れてしまう。いや、ヒルクライム中の撮影は危ないから絶対にやめましょう。
トンネル、上り坂、そして熊
気がつけば出発してから5時間以上が経過し、走行距離は70kmを突破しました。
3日目『小樽市⇒増毛町』ルートで、おそらくここが最大の上り坂。
気合いを入れて走っていると、青い案内標識に目的地の文字。
初の『増毛』をこのタイミングでもってくるとは、わかっていらっしゃる!
それにしても、ここいらの地名は『濃昼』と書いて”ゴキビル”と読むのか。
こちらもアイヌ語由来で、訳しにくい文字や誤字が入り混じり、この文字・読み方になったようですが、どうしても苦手なアイツを思い出してしまう。
4文字中2文字しか一致していないのに、おそろしいインパクト。いや、こんな話はやめよう。明るい時間帯を好む僕としては、濃い昼という字面はすごく好き。
そんなわけで『濃昼トンネル』に突入です。
全長275mと、距離は短いですが上り坂にあるのが厄介です。
幸いなことに交通量も少なかったので、サクッと抜けることができました。上り坂&トンネルの危険度ははかり知れません。今後、ないことを祈ります。
海を眺めながら、上り坂を進みます。
空模様は相変わらずですが、なんとなく雨の心配はなさそう。
時刻はちょうど12時。
短いトンネルを2つ3つ抜けると、ついに増毛町までの具体的な距離が……!
「55km!まだまだあるな!!」
そんな本音を吐露するものの、なにをいっても距離は縮まらないので粛々と走ります。
海岸線を通っていた道路は、ここにきて山中に進路を切ります。
地図で調べてみると、現在走っているのは石狩市浜益区。
緑が豊かですね。
しかし、木々が生い茂るところにいると、どうしても考えてしまうのが”熊”の存在。北海道に熊のいない地域はない……なんて話も聞いたことがありますし、油断はできません。
調べてみました。
②慌てて逃げない。
③ゆっくりUターンして引き返す。
とにかく、熊を刺激しないように注意しながら遠ざかるのがいいみたいですね。
走行音が少なく、それでいてスピードの出る自転車は、自分も熊もお互いの存在に気がつかないまま近距離に接近してしまうケースが多いそうです。
熊除けの鈴などを自転車に取りつけて、音を出しながら走るのも効果的。
また、熊の走るスピードは時速50km。巨漢に似つかわしくない敏捷性を備えています。
ロードバイクに乗っていても、簡単に追いつかれてしまうでしょう。
「下り坂ならいけるか?」
そんな考えが一瞬だけ頭をよぎりましたが、熊に追いかけながら冷静にダウンヒルできる自信が僕にはありません。
嵐の前の静けさ?後半戦にむけて
姿の見えない熊の恐怖に怯えていると、目の前にいやな光景が広がります。
『新送毛トンネル』
僕の祈りもむなしく、ふたたび行く手を立ちはだかる”上り坂&トンネル”の最恐タッグ。
行きたくないけど、迂回路のない一本道なので進むしかありません。意を決して突入!
トンネル内には”広い歩道”なんて気の利いたものはなく、自転車が走れるスペースはかなり狭い。横を通り過ぎる車との距離は近いですが、そもそもの交通量が少ないのは嬉しい。
さすがに勾配は緩いのですが、それでも間違いなく上り坂。
平坦よりも走行スピードは各段に遅くなりますし、トンネル走行独特の緊張感も相まって、全然進んでいる感覚がない。
そういうメンタル的なところもさることながら、単純に距離が長いんですよね。
調べによると、新送毛トンネルは全長2,995m!約3kmもあります。
「けっこう走ったな。そろそろ出口かな?」
そんな風に考えている最中、壁面に『出口まで残り2km』みたいな案内が出ると、愕然として逆に半笑い。これはなかなか、削られるな!疲労感がハンパじゃない。
10分か、15分か……実際の走行時間はそれ以上に感じましたが、なんとか無事に新送毛トンネルを抜けること成功しました。
ちょうどトンネルの出口あたりが”頂”になっており、抜けた瞬間からダウンヒル開始!
解放感と安堵感が胸にわきあがり、いつも以上に爽快です。
ちらりと海が見えるのも、気持ちを盛り上げてくれる小粋な演出。
このまま増毛町まで、一気に走っていきたいものですね!
時刻は12時30分を少し回ったところ。走行距離は約88kmです。
走行計画では『小樽市⇒増毛町』まで約127kmとしていたので、残り40kmくらいか。
基本的には国道231号・日本海オロロンラインをひたすらに進むだけなので、道を間違える心配も、迷う心配もないでしょう。
計画どおりに進めているはず。
道中に川を発見。
国道451号に沿って流れている2級河川『浜益川』です。
9月~10月に、たくさんの鮭(サケ)が海から戻ってきて川を遡上するらしい。
そういえば、北海道って鮭も有名ですよね。なぜか、今の今まで頭から抜けていました。
疲れていますが、幸いなことに朝イチに感じた足の痛みはありません。
アップダウンが少ないのもありますが、体に無理のないペダリングができているのも大きな要因でしょう。いい調子です。
左に道を逸れて進むと、明治から昭和にかけて盛んだった”ニシン漁業”の様子が展示されている『はまます郷土資料館』があるようです。
その地方の風習を知ることができる資料館、僕は結構好きなんですよね。
今回は立ち寄れませんが、「ここにこんな資料館があるんだ」と知れただけでも収穫です。
それにしても、ニシンと聞くと真っ先にスタジオジブリのアニメ映画『魔女の宅急便』のワンシーンを思い出すのは、僕だけでしょうか?
軽い上り坂……といっても勾配5%くらいあるので地味につらいのですが、とにかく上り坂をひょいひょとクリアしていきます。
距離も短いので、今更この程度ではさほど驚きもしません。
それにしてもいい景色ですね。流れているのは『幌川』というらしい。
進んでいくと自動販売機を発見。
真っ赤な筐体に白抜きの『coca cola』が、真夏の暑さも相まって購買意欲をそそります。
看板に『FOODS STORE WATANABE』と書かれた商店は休業?閉業?しているようですが、幸いにも自動販売機は稼働していました。
普段は控えている炭酸飲料を、ここぞとばかりに流し込む。
いいね、喉が喜ぶ!エネルギー補給もできているような気がして一石二鳥です。
ひと息ついてリフレッシュすると、少し気が抜けてしまいましたがここからが本当の試練。
連続するトンネルラッシュをどのように攻略していくのか?後編に続く!
~次回のライドはこちら~
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