小樽市をめざす道のりはアップダウンが多く、かなりの体力&気力を消耗します。
そんな2日目も、いよいよ終盤戦に突入。
この先には、本日最大のヒルクライム『稲穂峠(いなほとうげ)』が待ちかまえています。
正直、体はきつい。
しかし!この峠を越えさえすれば、小樽市までの距離が……精神的なところもふくめてグッと近くなるはず。気合いの入れどころだ!
太陽が輝く青空の下、ドロップハンドルを握りなおします。
少しずつペダルへの負荷が強くなるのを感じながら、負けないように力を入れて踏み込む。
よし、峠攻めの開始だ!
~前回のライドはこちら~
最大の難関・稲穂峠ヒルクライム
ひとつのヒルクライムをクリアし、駆ける下り坂の終点は国道276号とぶつかるT字路。
そこは、本日最大の難関であろう『稲穂峠』への入口でもあります。
青い案内標識に導かれるまま、右折して『小樽・余市』方面に舵をきり、走っていく。
少しずつ……ですが、確実に重くなっていくペダルへの負荷。
いよいよ、稲穂峠に突入します。
長万部町の宿のご主人、道の駅らんこしの店員さんに聞いたとおり、小樽・余市方面への主要道路らしく、整備されていて路面状態は快適。
交通量がそこそこ多いのため車に気をつかう必要はありますが、あまり閑散とした山道を利用すると”熊”に遭遇しかねませんからね。
熊よけという意味では、むしろありがたい。
えっちらおっちら上ります。
幸いなことに”めちゃくちゃ急勾配”というわけではなさそうですが、ここまでの道のりで体が疲労しているのか思うように前に進まない。
しかし、体に”痛み”という形での異変はあらわれていません。昨日、ゴール手前10kmで足をつったのがうそのような調子です。
いや……油断は禁物!無理せずに自分のペースで走ることが大切。
長く続く上り坂。ヒルクライムは峠との、自分との戦い。調べたところ、稲穂峠は約7kmあるらしい。結構な距離を上るんですね。
延々とまっすぐに続く峠道。
曲がりくねった”つづら折り”になっていないので走りやすいですが、どうしても足取りが重い。上り坂では平坦な道より車への注意が必要になるのも、メンタルがやられる原因。
「あぁ、なんだか疲れた。モチベーションが……」
そう弱音を吐いたとき、前方に小さな人影が見えました。あれはいったい?
こちらも時速10km前後とゆっくりペースですが、少しずつ、少しずつ縮んでいく距離。そして、その姿をはっきりととらえたとき、愕然としました。
わりと高齢と見受けられる方がリュックサックを背負い、両手に杖……登山用のステッキを持ち、徒歩で峠を上っているではありませんか!
「稲穂峠を……この上り坂を……歩いている!?」
ハイキングをする人、いわゆる”ハイカー”でしょう。登山家ではなさそう。
なんにせよ、自転車でも大変な峠を2本の足で越えようとしている。すごいことです。その背中にはげまされ、勇気をもらいました。
心に火がともった!これは、自分も情けないこといってられないぞ。
追い抜くときにあいさつだけして、あとは自分も”感謝と激励”を込めた背中で語るのみ。
会話もなく一期一会ともいえないような刹那のすれ違いでしたが、僕の胸には確実に刻み込まれ、よい旅の思い出になりました。
さあ、心機一転!ペダルを踏み込んでいこう!
峠越えのご褒美!しろうさソフトクリーム
よしよし、いいペース。けっこう進んだかな?
道路の左側には、川が流れています。
雄大な川面を眺めるのもいいですが、石や岩にぶつかり白波をたてて流れる川も見ていて飽きませんよね。
とくに今日のような暑い日は、小川の方が清涼感を得ることができてグッドです。
ヒルクライマーのご褒美、峠の名前が書かれた看板を発見しました!
定かではありませんが『峠名看板があるところ=峠の最高地点』と認識しています。
あってる?多分そうでしょう。
とにもかくにも約50分かけて、なんとか稲穂峠を上り切りました!感無量。あとは下るのみ!
なんてうまくはいかず、すぐさま『稲穂トンネル』が出現。全長1,230mとかなり長い。
入口で立ち止まり、フロントライト&テールライトを点灯してから進入します。
整備されていてきれいですが、段が高くなっているような歩道はありません。そのため、車と共に車道を走ることになります。
もちろん、自転車は”車道走行”が大原則。
しかし、今回のように『車道を走るのがとくに危険であり、歩道通行がやむを得ない場合』にかぎり、自転車は例外的に歩道を通行することができるのです。
ルールを最大限に活用し、自分の安全を確保しながら走破をめざす。
サイクリストに欠かせない基本能力でしょう。
トンネルを抜けると『仁木町(にきちょう)』に入りました。
カントリーサインからもわかるように、北海道を代表する果樹の町。
稲穂峠の入口でもあった『共和町(きょうわちょう)』もそうですが、仁木町の町名もアイヌ語由来ではないそうです。北海道開拓者の仁木竹吉という方から取られたらしい。
気持ちのいいダウンヒルを走り切ったところに、大きな川が流れていました。
鮎(あゆ)釣りで有名な『余市川』です。
それにしても、北海道は本当に自然が豊かだ。道中には大きな岩石もありました。
なんだかよくわかりませんが、目を引いたので激写しておこう。
そして、最近できたのかな?と思うくらいに新しく、おしゃれな雰囲気のお店を発見。
調子よくペダルをまわしていたので横目で見ながら素通りしてしまいましたが、思い直してブレーキレバーを引きます。
せっかくなので、少し休憩することにしよう。
『甘味処しろうさ』
聞くところによるとほんの3か月前、2022年5月にオープンしたばかり。
いろいろあるメニューの中で、気になったのは隣接した農園『しろうさファーム』で採れたフルーツを使用したパフェ。
しかし、胃袋の調子とも相談して、とりあえず王道のソフトクリームを注文します。
本日2本目のソフトクリームですが、それだけのカロリーを消費している……と信じて、気にせず食べます。濃厚でめちゃくちゃおいしい。
口の中が甘くなったところに、アイスコーヒーの苦みが心地よい爽快感を与えてくれます。
大満足!引き返してきて本当によかった!
宇宙とリンゴの余市町
エネルギーも補給できたので、再出発。
うって変わって平坦に続く道を直進して『余市町(よいちちょう)』に入ります。
約6km先にある交差点『余市駅前』を左折。
小樽市までのルートを少し外れて、15時15分ごろ『道の駅 スペース・アップルよいち』にたどり着きました。
宇宙飛行士の毛利衛さん出生の地であること、特産物がリンゴであることからのこの名前。とても特徴的で覚えやすい。
これまで立ち寄った道の駅の中で、1位2位を争うくらい施設が充実している印象です。
併設された『余市宇宙記念館 スペース童夢』には、毛利衛さんを紹介するホールやデジタルプラネタリウム、3Dシアターがあるそうです。
先を急ぐ旅の身なので入館はしませんが、スペースシャトルと思い出のツーショット撮影。
歩きまわっていると、売店もありました。
もともとは体育館だったのかな?と思うくらいに大きな建物。窓ガラスの形状も独特です。
宇宙関連のグッズや本物の宇宙食が販売されており、なかなかに独自性のある売店。好きな人にはとことん刺さりそうなラインナップです。
お土産でも買いたいところですが、日本最北端・宗谷岬をめざす長旅の途中で、荷物の重要をいたずらに増やすことは避けたい。
そんなわけでリンゴジュースを買いました。
本当はソフトクリームを食べたかったところですが、さすがに1日3本は食べられない。それでも、余市町の特産物をほんの少しでも堪能できてよかったです。
道の駅を出て、来た道を引き返します。
出発してすぐのところに『ニッカウヰスキー 余市蒸留所』がありました。
歴史のありそうな建物。なんでも、第1の蒸留所らしく”ニッカウヰスキーの原点”とも呼ばれているみたいです。
そして、山を越えて北海道の”くびれた部分”を無事に横断。
目視できませんが、左側には日本海が広がっているはずです。
しばらく進むと視界が開け、海を眺めることができました。
なんだか、ものすごくひさしぶりな感じ。
空には薄い雲が広がっていますが、そのむこうに輝く太陽の光が相まって、より幻想的な風景を作り出しています。すばらしい。
水平線上に見えるのは積丹半島ですね。
地図で見ると、ここ『フゴッペ海水浴場』は川が海に流れ出る河口にあるようで、独特な地形になっています。
海に囲われた陸地には、人が数人おりました。満潮になったら沈んでしまわないのかな?
海岸線をラストスパート
短いトンネルを抜けると、待ち望んでいたものが目に飛び込んできました。
おおー!ついに小樽市に入ったー!
カントリーサインには観光地である小樽運河、レトロな雰囲気の街灯がデザインされています。小樽市は普通の旅行で訪れたことがあり、懐かしい情景が目に浮かびます。
時刻はもうすぐ16時になるところ。
宿までの残り距離は約20kmなので、日が暮れるまでにはたどり着くことができそうだ。
前方、視線の先にたくさんの人が集まっていました。なんだろう?
地図によると、100年以上の歴史をもつ北海道最古の海水浴場『蘭島海水浴場』みたいです。
北海道は”寒い”という印象が強いため、なんとなく海水浴のイメージが希薄でした。しかし、夏は当然のように暑い。今日も暑い。絶好の海日和というわけですね。
その先にあるのは、全長1,742mの『忍路(おしろ)トンネル』です。な……長い!
体力が消耗しているときは、なるべく遭遇したくないものですが、なんとか走破。抜けるとすぐに、全長1,063mの『塩谷(しおや)トンネル』があらわれます。
僕が自転車に乗っていていちばん怖いのは、やはりトンネルでしょう。
薄暗いため路面状況、落ちているゴミや異物には細心の注意を払わなければなりません。体のすぐ右側をいきおいよく通り過ぎる車にも気をつけながら、出口をむかえます。
「無事に抜けることができた~!」
ほっとひと息。
さらなる”トンネル地獄”が翌日に待ち受けていることを、このときは知るよしもなかった。
海を離れるように伸びる国道5号。
道沿いに住宅やお店などの建物が増えてきて、市街地に続いていく雰囲気を感じます。
あとは、まっすぐ進むのみ……と思いきや、次第に重くなるペダル。あれ?上り坂か!?
勾配は3~4%程度。
そこまできついわけではありませんが、疲れた体にはこたえる。
「これが最後の試練だ!」
意気込み半分・願い半分の叫びと共に、下をむきそうになるのをこらえて坂道を進みます。
そのとき、1台のロードバイクが後方から颯爽と登場。は……速い!全体的に細身で、トップチューブが地面と水平になっている”ホリゾンタル”のフレームです。
余計な装備がついていない街乗り仕様のようで、洗練されていてカッコいい。乗っているのは外国人の方。ここらへんに住んでいる人でしょうか。
「がんばってください~!」
流暢な日本語で声をかけていただきました。
しんどいときの応援・声援って、本当に染みますよね。上り坂にやられたメンタルも全回復……とまではいきませんが、最後まではもちそうだ。
遠ざかる背中を見つめながら、とにかく前に進むことに集中します。
ゆるりと続く3kmほどの坂道を上り切り、ついに小樽市街に到着!
圧倒的な観光客の多さ。人ごみを避けるため、小樽運河のあるメインストリートから1本入った道路を走ることにします。
さて、宿はどこだろう?ここからは、地図アプリの出番です。
最後の最後に、ほんの数十メートルですが上り坂がありました。
きつい!……だけど、ここさえクリアすれば休める!その一心でふんばり、ようやく目的地である宿にたどり着くことができました!
『おたるないバックパッカーズホステル 杜の樹』
今夜お世話になる”ゲストハウス”です。
旅人を応援するかのような宿名に惹かれ選びましたが、直観を信じてよかった。外観から、すでにナイスな雰囲気が伝わってきます。
宿名は、小樽の由来になったアイヌ語”オタ・オル・ナイ”からとっているようですね。ちなみに意味は”砂の中の川”です。
ロードバイクを担いで石段を上り、なんとかチェックイン完了。
こうして、自転車旅2日目は無事に終了となりました。お疲れさまでした!
【本日のライドデータ】
走行距離 136.01km(トータル258.95km)
所要時間 10時間42分
走行時間 8時間52分(-1時間50分)
夜の小樽で食べ歩き
古い建物を修繕・改修してゲストハウスにしたようで、味わい深く、ぬくもりのある内装に好感が持てます。落ち着くお家という感じ。
まずは宿内の説明を受けてから、自室に案内していただきます。
ドミトリースタイル、いわゆる”相部屋”で、ひと部屋に2段ベッドが複数あります。そのベッドの範囲が、宿での自分専用プライベート空間になるわけですね。
ベッドもなにやら手作り感があり、ワクワクします。ここは1日きりではもったいないな。
この日は他に宿泊客がおらず、貸し切り状態。
これはラッキー!……と思う反面、旅人との出会いや交流がゲストハウスの魅力のひとつでもあるため、その点は残念に思います。まぁ、いいでしょう!
腹ペコなので最低限やることを片付けて、日が暮れつつある小樽の町に繰り出します。
ゲストハウスでもらった地図を片手に飲食店、できればお寿司が食べられるお店を探しますが、人気観光地なだけあってどこもいっぱい。
あんまり個人経営ぽいところは入りにくいし、どうしたものか。
うろうろしていると、路地にたたずむ一軒のお店に目がとまりました。
『天ぷら 藏谷(くらや)』
店内を見ると、幸いなことに……いや、店側からしたら全然”幸い”ではないんでしょうが、お客さんはひとりもいません。入りやすい。ここにしよう。
小樽市で天ぷらを食べるのも、なかなかシャレていますよね。
北海道自転車旅、2日目を無事に走り切ったお祝いにハイボールで乾杯。
疲れた体に染みわたる!
丼ものもありましたが、オーソドックスな天ぷら定食をチョイスします。
天ぷらが少ない?そうではありません。カウンター席の目の前が厨房になっており、常に揚げたてを提供してくれるのです。
衣がサクサクでおいしい!
食べたりなければ、いろいろな食材を単品注文して天ぷらにしてくれるので、「次はどれにしようかな?」という楽しみもあります。
店長と思われるお兄さんと談笑しながら食事をしていると、どんどんお客さんが入ってきて、気がつけば店内は満席状態。
しっかりと人気店だったみたいですね。この雰囲気、おいしさ、そして店内のにぎわいが、それを物語っています。僕の”いちばん乗り”はタイミングがよかっただけでした。
すばらしい時間を過ごすことができ、満足して店を出ます。小樽運河から入ってすぐ、出抜小路にある『天ぷら 藏谷(くらや)』……おすすめです!
サイクルコンピューターを見ると、本日は3,684キロカロリーも消費していた模様。
成人男性の1日の消費カロリーは1,500~1,800なので倍近くになりますね。
そりゃあ、腹も減るはずだ!
てなわけで、宿までの道中にあったラーメン屋に吸い込まれてしまいました。普段は小食……少なくとも大食いではないんですが、自転車旅の夜だけは別。
消費したカロリーの補充と、明日を走り切るためのエネルギーを蓄えるために爆食!
お腹もいっぱいになりました。食べすぎて、腹がはちきれそう。
小樽市街も、結構うろうろできておもしろかった。それでは、宿に戻って就寝しよう。
明日はどんな旅になるだろう?楽しんでいきましょう!
~次回のライドはこちら~
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